この記事を読むと自分を再認識して明日を生きる勇気が湧きます
登場人物:
ハル:若手の営業社員、熱血漢で真面目な性格、向上心がある女性社員。困ったことをたびたび、タクに教えを請うと称し、愚痴を言いに来る。
タク:ハルの会社の元先輩で、退社して起業した。マイペースで自由な性格。
レイカ:ハルの1年先輩社員。努力家で感情豊かな女性社員。
久しぶりの再会
タクが、レイカに呼び出されたのは、月末の金曜日だった。
レイカはハルの1年先輩で、タクも仕事を共にしたことが何回かある。レイカは、人事異動で今は支店営業部に在籍しているとハルに聞いている。レイカは、真面目な性格で、感情を表に出すタイプだった。先輩社員との議論もひるまないので、煙たがられる事もあった。タクは、そんなレイカが嫌いではなかった。若い頃の自分と似ていると思ったからだろう。
でも、そんなレイカが一体どんな話があるのだろうか?タクはとりあえず会って話を聞くことにした。
「待たせたね、久しぶりだね」
タクが来た時には、既にレイカが店内で待っていた。
「お呼び立てして、申し訳有りません。今日はありがとうございます。でも、ずるいじゃないですかぁ。ハルの相談ばっかり乗って!私の悩みも聞いてくださいよぉ」
レイカは、冗談交じりで女性らしく拗ねている。
「いやぁ、相談されなかったんで、順調かなっと思ってたよ。今日はどうしたんだい」
頑張り続けるのは辛い
「実は、最近、頑張ることに疲れちゃいまして。イライラする頻度も多くなって、先輩社員との口論も最近多いんです。黙って、与えられた仕事をこなせば良いんですが、ちょっと一言、余計なこと言ってしまうんです。自分ってこの仕事向いてないのかなって、最近、悩んでます」
「そっか。俺も仕事に向いてないから会社を辞めたんだけけどね」
タクは、ふっと笑った。笑いを取ることで、場がネガティブ側に振れなくなる。もし、タクも相談者と一緒に「同じ穴」に落ちてネガティブな感情に陥ってしまえば、問題解決が遠くなる。その事を、経験的にタクは知っていた。
「具体的には、どのようなことで疲れているんだい」
「最近、課の売上が思わしくないんです。だから、部長からの指示もあって、会議で企画を提案してるんです。普通の仕事もあって、会議間際まで練って資料に多くの時間を掛けているんです。でも、会議になると誰かの一言で、企画内容が全く違ったものなります。正当性が納得できれば良いのですが、どっちでも同じだろうと思うこともあります。自分の企画が否定されたみたいで悔しくなります」
何の為に頑張ったの?
「それは、大変だったね。レイカは企画を考えて発表した訳だけど、何の為に頑張ったの?」
「うっ、それは、営業部員なら売上目標を達成する為に決まってます」
レイカは当たり前の質問に、一瞬詰まったが、なんとか言葉を出した。
「そうなんだ?じゃあ、売上さえ上がれば企画内容が誰かによって変えられても、問題ないと思うけど?会議の参加者も変えたほうが課の売上に貢献すると判断したんじゃないかな?」
レイカは、言葉が出なかった。痛いところを突かれたと感じた。無言と怒りがこみ上げてくる。レイカは元々、熱くなるタイプだったが、会議の時に何も出来ない自分を思い出して、思わず悲しくなってしまった。
「ごめん。責めるつもりはないんだよ。実は、俺もそうだったけど、会社員でいると『〜だと決まっている』とか、『〜すべき』とかで、自分の思考を停止している場面が多いんだ」
ちょっと、涙ぐんだレイカは頷いている。
「でもね、怒ることや悲しいことは、自分を振り返るチャンスでもあるんだ。このままだと、上手くいかないよって、自分でサインを出しているんだ。家電やパソコンのエラー表示みたいなものさ。エラーを読み取って、修正すればいいんだ。でも、エラーを無視して、『こんなに努力しているのに解ってくれない』、なんて拗ねていると、問題は解決しないよね」
レイカは本当にそうだと思った。
「質問に戻るね。レイカは何をして欲しかったから、頑張ったのかな?」
「きっと、認めて欲しかったんだと思います」 タクは続けた。
「認めて欲しかった理由はなんだろうねぇ」
「認めてもらえると嬉しいからだと思います」
「そうだね。他人に認めてもらえると嬉しい。心理学者マズローは、他人に認めてもらいたい事を承認欲求と言い、人間が持っている本能の一つだと説明している。他者承認は、当然、他者からの承認を得られると嬉しいというものだね。でも、他者には各々の評価があるから、いつも承認されるとは限らない。他者に承認されない場合は、自分が否定された気持ちになるんだ」
「確かに、そうですね」
「次の質問をするよ。でも、無理に答えなくてもいいからね。なぜなら、自分の心と向き合うのは、慣れていないとしんどいからね」
「はい、大丈夫です」
「では、レイカはみんなに認められてないのかな?」
「えっ、一応認められていると思います。たぶん」
「そうだね、認められていないなら、戦力として会議に出てないよね。ここで解ることは、人は自分が既に持ってるものを忘れてしまうことが有るということなんだ。だから、無いと思って頑張って獲得しようとする。でも、既に有ることに気付いていないので、さらに頑張って獲得しようとする。喜劇のようだけどよくあることなんだ」
レイカは、静かに聞いている。
2つの幸福感
「もちろん、何かを獲得する幸福もある。脳にドーパミンが分泌されて、やってやるぞという高揚感で努力して勝ち取る幸福だ。とてもエネルギッシュなのが特徴だ。例えば、自分を雑草だと言ったアスリートが努力で成功するとみんなが、ヒーロー視するね。大きなお金も動く」
「ドーパミンで得られる刺激的な幸福感がないと、人は努力や行動をしないので、学習もしないし、成功もない、お金も得られない。これでは、生活出来ないね。努力をして達成感を得たいし、承認だってされたいのが人間だね。ただし、この場合、行動や努力が必要という条件付きだし、行動の結果という未来にもらえる幸福感だから、貰えない場合はがっかりするね」
レイカが頷く。
「もう一つ、既にあるもので幸福感を得ることもできるんだ。レイカが企画提案したのは、課のみんなに認められたいだけじゃなくて、他の理由があるじゃない?」
「そうですね・・・課のみんなで助け合って、売上達成をお祝いしたいと思っていました」
「そうだね。それは、課への帰属意識、一体感だね。新たに努力しなくても、既に持っているよね。お祝いしたいと思うと、どんな感じがする?」
「ウキウキしますね。」
レイカは嬉しそうに言った。
「実際に売上をあげていなくも、お祝いしたいと思っただけで幸せを感じることができるでしょ?」
「なるほど、そうですね」
「それは、ドーパミンの湧き上がるようね幸福感と違い、静かでゆったりとした幸福感だと思うんだ。その幸せ感があれば、いいアイディアも浮かぶし、行動も軽くなるね」
「そうそう、みんなと楽しい仕事ができると思います」
「どちらの幸福感も大切だよ。獲得する幸福がないと、やる気にならないけど、いつも何かを獲得しないとダメなら、努力が苦しくなるよね。今回みたいに努力しても凹んだ時には、今あるものを思い出して、感謝するといい」
レイカは真剣に聞いている。
「いつもそばに有るもののありがたさは、忘れてしまうね。日本にいれば、水道をひねれば水は出るし、食べ物もスーパーやコンビニに売っている。お金がなくても生活保護はあるし、健康保険制度がしっかりしているから、病気になっても、病院で診察してもらえる。これってありがたいと思わないかい?」
レイカは頷いている。
「そうですね、友人のアメリカ人にアメリカでの病院事情は聞いたことがあります。私達は、確かに恵まれていますね」
自分が既に持っているものを再確認するいい方法
「昔の俺もそうだったな。無いものにばかり意識が向いてしまう。減点主義の教育や、他人との比較で評価される社会制度の結果だと思うんだ。例えば、レイカは俺より若い。若いと気後れするかも知れないけれど、年上にとっては、時間という貴重な資産を持っていて羨ましいんだ。女性だから職場で不利だと言う人もいるけれど、女性だからできることだって有る。そういえば、レイカの文章力をみんな褒めていたのの覚えているよ。解りやすい文章は誰にも書けるとは限らない。貴重な特技だと思う」
「そうですか?自分では大した文章を書いているとは、思えないんですけれど・・・」
「自分では当たり前と思っていることが、他人には特別なことってよくあると思う。自分の事は、良くわからないよね。まず、自分の心に聞いて、自分が既に持っている幸せに気付くことが、近道だと思うんだ。でも、普通の生活をしていると色々な『雑念』で、自分の心が聞こえないんだ」
「そこでだ、ゆったり時間が取れる日、例えば休日でいいので、家の周りを朝、散歩してみるといい。町並みを見て、植物を見て、風を感じて見ると良い。あの建物はおしゃれだとか、こんなところにカフェができたんだとか、新たな発見があると思う」
「そして、今持っていることを一つ一つ思い出し、感謝してみよう。そうすると、静かな幸せが湧いてくる。気持ちが良かったり、癒やされた感覚になると脳内物質セロトニンが分泌されて、静かな幸せ感が湧くんだ」
自分心の声を聞いて、持っているものを再確認する方法
- 家の周りを散歩する
- 何気ない風景を観察する
- 自分に有るものを確認し、一つ一つ感謝してみる
「今、有るものに感謝できると、がむしゃらに頑張らなくてもいいと気付ける。自分が成功する為に頑張るのではなく、みんなの為に、将来の自分の為に努力しようと思えるようになるんだ。そうしたら、新たな自分に出会えると思うよ」
レイカは感心した面持ちで、微笑んだ。
「今日は良いお話を聞きました」
「俺は、脳科学や心理学に関心があってね、ここらへんの内容は樺沢紫苑さんの『3つの幸福』が詳しい。一読をお勧めするよ」
「はい、ぜひ読んでみます。ありがとうございました」
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